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353. 韻律的特徴
【日時】 2008/03/11 01:40
【名前】 うにうに

No.343の掲示板で予告しましたが,「韓国語教育論講座」第1巻を読んでいて「なるほど,やっぱりそうだよね!」と思った,「韻律的特徴」(プロソディ)のことをちょっと書いてみようと思います。
「韻律的特徴」という用語だけ聞くと難しそうに思えますが,そんなたいそうな話ではありません。
アクセントや,イントネーションなど,音声言語の長さとか,強さとか,高さ(音程,ピッチ)のことです。

日本語には,一部の方言を除くと,音の高さで表すアクセント(ピッチアクセント)があります。
アクセントが変わると,単語の意味が変わったり,不自然さを感じたりします。
たとえば,「下記の通り」の「下記」は,東京アクセントの場合,カを高く,キを低く発音します。逆にすると,「柿の通り」のように感じられます。
これを,「アクセントが示差的である(または,弁別的である)」といいます。

英語やドイツ語にもアクセントがありますが,日本語と違い,アクセントのある部分を強く長めに発音します(ストレスアクセント)。もっとも,実際にはピッチも多少上がりますが。
アクセントが変わると,意味(品詞)が変わったり,不自然さが感じられたりします。

これに対して,韓国語は(一部の方言を除き)示差的アクセントを持ちません。
나무は,尻上がりに(나を低く무を高く)読んでも,逆に頭を高く読んでも,木という意味に変わりはありません。

「しかし,だからといって音の高低を適当につけていいのではなく,自然なピッチパターンは厳然と存在し,そのようなピッチパターンに反する音の高低は韓国語母語話者にとって不自然さを覚える.それにもかかわらず,ピッチの教育はこれまで,必ずしも十分になされてきたとはいえず,極言すれば等閑視されてきたと言っても過言ではない.」
(同書より趙義成「文字と発音の指導法」p.383)

たとえば,노무현前大統領の演説を聴いていると,語彙は(堅い言葉遣いですから)他の政治家やアナウンサーの政治ニュースなどと変わらないのに,何となく違うなという感じがします。
これは,彼がソウルマルとは違うパターンのプロソディーで話しているからだと思われます(どんなふうに違っているかは,次の記事で触れます)。

以前,ラジオのハングル講座入門編をたまたま聴いていたとき,イ・ユニ先生の時だったかと思いますが,スタジオに生徒さん(女性)がいて,先生の後について文を発音していました。
ところが,個々の子音や母音はきちんと発音できているのに,何となく不自然なのです。
そう,ピッチが先生の発音と違うのです。
先生もそれに気がついて,言い直させたのですが,生徒役はどこがいけないのか分からなかった様子で,また同じ発音をしていました。
結局,まあいいやという感じで,「よくできました」と次に進んでしまったような記憶があります。
思うに,その生徒さんは今まで,音の高低を意識して発音したことがなかったのではないでしょうか。
もしかしたら,アクセントが示差的特徴になっていない地域の出身かも知れません(茨城や宮崎の一部がそうらしいです)。

上の文章に続いて趙先生は,宇津木先生が「韓国語教師研修会」(例の,韓国文化院で開かれているやつです)で提唱された「への字の法則」を紹介しています。

ひとまとまりの言葉を発音するとき,ピッチは
・第2音節が最も高く,そのあと徐々に下がる
・第1音節は,初声が激音・濃音・ㅅ・ㅎのときは第2音節と同じ高さ。それ以外の時は第2音節よりやや低く始まる

最初にこの本を読んで「ああ,やっぱり」と思ったのはこの法則でした。
前から何となくそんな気がしていたのですが,ちゃんと研究している人がいたんだなあと思って,嬉しいような,先を越されたような(言語学者でもないくせに,先を越されるもないのですが)。
特に,濃音の発音を習ったとき,テレビやラジオの講師や本に書かれている説明も含めて,どの先生も,子音そのものの発音の仕方しか指導していませんでしたが,自分の耳には,明らかに濃音で始まる音節のピッチが高く上がって聞こえたのです。
その後,管理人さんにご紹介いただいたサイトで読んだ宇津木先生の博士論文でも,濃音は後続母音の第1フォルマント(F0)を高くする,という記述を見て,改めてやはりそうだったのかと安心しました。
http://utsakr.hp.infoseek.co.jp/publications_j.htm
「朝鮮語ソウル方言におけるアクセント句 ― 音響分析による再検討 ― 」
また,この論文によると,語頭の子音によってピッチが上がることはずいぶん昔から言われていたようです。

長くなったので,いったん切りましょう。
前回の予告で宇津木論文と言っておきながら,趙先生の論文を主に紹介したのは,話の流れの都合といいますか,そのほうが分かりやすいかなと思ったからです。
次の記事では,宇津木論文を中心に,「への字」の元になった韻律モデルなどについて書こうと思っています。

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Re: 韻律的特徴 ( No.1 )
【日時】 2008/03/11 23:36
【名前】 kajiritate webmaster

うにうにさん,いつもためになる書き込み,本当にありがとうございます! (^^)

教育論講座1巻の宇都木先生の論文,先ほどやっと読み終わりました(^^;
この分野に関する私の知識はゼロですので,うにうにさんの書き込みを参考にして
勉強を始める手がかりにしたいと思います.これからもよろしくお願いします.m(__)m

今回のうにうにさんのお話に関して私が何かを書けるだけの知識はまだないのですが,
「示差的アクセント」のイ・ユニ先生の講座の実例がとても興味深かったので,
韓国語とは全く関係ない内容ですがふだん気になっていることを少しお話し致します.

私の住む福岡も,高低ピッチの弁別はそれほど明瞭でないような気がします.
よく例にあげられる「雨」と「飴」,「箸」と「橋」などの言い分けも,
ふだんの会話ではあまり区別されず,どちらも高低がはっきりしない平板な発音をするような…?

それどころか,首都圏とはちょっと違うものもあります.
代表的なもの(だと私が思うもの)のひとつに,福岡最大の繁華街「天神」があります.
地元の人は「テン」も「ジン」も高低の差がない平板な発音をしますが,
首都圏では「テン」がH,「ジン」がLで,「テン」にアクセントのあるような発音をする人が多くて
違和感を感じてしまいます.

また,「めかぶ」の発音にはそれ以上に違和感を感じます.
首都圏では「メ」がH,「カ」と「ブ」Lで,特に「メ」と「カ」の差が大きいようですが,
福岡では逆に「メ」はLで,「カ」と「ブ」は「メ」より少し高めで平板に発音します.
私だけそうなのかも?と思いましたが,ローカルのテレビ番組で,ナレーターの方が
私と同じように発音するのを聞いたことがありますので,
たぶんそれが福岡での標準発音(?)だと思います(^^;

なので,うにうにさんがお聞きになった講座の生徒さんは,
もしかすると福岡出身だったのかも?と思った次第です…

以上,脱線失礼しました!(^^;
次回の書き込みも楽しみにお待ちしております!m(__)m
Re: 韻律的特徴 ( No.2 )
【日時】 2008/03/18 00:24
【名前】 うにうに

>なので,うにうにさんがお聞きになった講座の生徒さんは,
>もしかすると福岡出身だったのかも?と思った次第です…

いや,福岡は高低アクセントがしっかりしていると思いますよ。
単に,東京アクセントと異なる単語があるというだけでしょう。

>「めかぶ」の発音にはそれ以上に違和感を感じます.
>首都圏では「メ」がH,「カ」と「ブ」Lで,特に「メ」と「カ」の差が大きいようですが,
>福岡では逆に「メ」はLで,「カ」と「ブ」は「メ」より少し高めで平板に発音します.

こういう感覚を持たれているということが,なによりの証拠だと思います。

以前,福岡出身者と話していて,地名の「香春」をLHHで発音したら,ものすごく不機嫌そうな顔で,HLLに言い直させられたことがありました。
「河原」や「瓦」みたいと思うのでしょうか。

福岡のアクセントは(博多も北九州も),タイプで言えば東京型に属すると言われています。
L(low), H(high)の表記でそれで説明しますと,東京型の特徴は「1音目と2音目のLHは必ず異なる」というものですが,福岡も基本的にはそのような特徴があります。
大阪弁のように「あかん(HHH)」といったパターンは東京型では現れません。

本題は別記事で。
…と思ったのですが,今夜はちょっと疲れていて早めに寝たいので,明日以降に改めて書きます。
Re: 韻律的特徴 ( No.3 )
【日時】 2008/03/19 00:32
【名前】 kajiritate webmaster

うにうにさん,いつも示唆に富んだお話ありがとうございます!(^^)
やはりこの分野のお話を理解するにはまだまだ知識不足ですね...(^^;

お体に負担がかからない範囲で,今後とも書き込みよろしくお願い致します.m(__)m

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